法的に問題がなければ【どんな遺言の内容】でもいい訳ではない
公正証書遺言を作成したから、何の問題もない。
こう思われる方は多いかもしれません。
確かに、公正証書遺言であれば、法的に問題になることは、まずありません。
ただ、公証人は「遺言の内容」については、アドバイスしません。
例えば、「この遺言の内容だと、相続税が莫大になるので見直しましょう」といったアドバイスをしてくれない、ということです。
遺言が法的に有効かどうかはもちろん大切ですが、遺言の内容も大事です。
そして、遺言の内容は「税理士などの相続税のシュミレーションが出来る専門家」と相談しながら、考えていくのがベストと言えます。
また、税制は毎年改正されます。
税制改正や家族状況、財産状況の変化にあわせて、遺言の内容は定期的に見直すことが大切です。
相続税も意識して遺言の内容を考える
遺産が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超える。もしくは超えそうである。
このような場合には、相続税の節税や納税資金のことも考慮して、遺言を作成しましょう。

例えば、大きな節税効果が見込める代表的なものに「小規模宅地等の特例」という制度があります。
これは一定の条件を満たすと、最大で居住用の宅地などの財産評価額が8割減額できる、というものです。
ただし、この制度を利用するためには、
- 相続税の申告期限までに遺産分割がまとまっていること
- 被相続人と同居していた相続人が遺産相続すること
などの条件があります。
また、もう一つ代表的なものに「配偶者の税額軽減」というものがあります。
これは配偶者が遺産相続する場合、1億6,000万円以下または法定相続分のいずれか多い金額まで「相続税がかからない」という制度です。
同居していた長男が実家(土地含む)を遺産相続すれば大幅に節税できるのに、長男以外の者に実家を遺産相続させ、多額の相続税が発生した。
あるいは、妻に最小限の遺産だけを遺した結果、多額の相続税が発生してしまった。
遺産が基礎控除額を超えてくる場合には、必ず相続税もシュミレーションしてから、遺言の内容を決めましょう。
だからといって、節税一辺倒の遺言にならないように、注意することも大切です。
また、相続は節税以外にも、争続や納税資金の問題も考える必要があります。
例えば、相続税の納税資金は、取得財産の割合に応じて、納税の負担割合が決まります。
なので、現預金などを一切相続せず、不動産だけを相続した結果、納税資金が確保できない、ということは十分に考えられます。
このようなことも想定して、遺言の内容は決めましょう。
遺言の内容が「遺留分を侵害」していないか注意
相続には【遺留分】というものがあります。
相続人の間の公平を守るという観点から、兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限確保されている相続分(法定相続分の半分)があります。
例えば、相続人が妻と子供一人である時に、遺言で子供に全てを遺産相続させる遺言を遺したとします。
ただ、妻には1/4(法定相続分1/2の半分)の遺留分があります。
この遺留分は、遺言によっても奪うことは出来ません。
よって、妻は子供に対して遺産の1/4を請求することが出来ます。
ちなみに、遺留分を請求することを「遺留分侵害額請求」といいます。
よかった。
遺言で子供である私への遺産相続が皆無だったので、財産をあきらめていたのですが、遺留分はもらえるということですね。
注意が必要なのですが、あなたが何もしなければ、遺留分の遺産を相続出来ません。
あくまでも、遺留分侵害額請求をする必要があります。
また、遺留分を侵害している遺言でも、遺言としては有効です。
遺言の内容が遺留分を侵害していると、遺留分侵害額請求が発生する可能性があります。
そして、この遺留分侵害額請求により、相続人間が骨肉の争いに発展しかねません。
遺留分を侵害しない形で、遺言の内容を決めるのがベストと言えます。
もしも、遺留分を侵害する分け方しかできない場合は、前もって相続人と話し合っておきましょう。
そして、出来れば被相続人の生前中に、相続人に遺留分放棄の手続きをしてもらいましょう。
遺留分放棄の手続きをしておけば、たとえ遺言の内容が遺留分の侵害をしていようとも、遺留分侵害額請求は出来ません。
また、生前中に、相続人のある特定の人物にだけ、特別に財産を贈与していた。
このように特別に贈与された財産を「特別受益」といいます。
そして、特別受益を受けた者の相続割合を算出する際には、この特別受益を持ち戻す必要があります。
例えば、長女が相続では3,000万円の不動産を遺産相続した。
しかし、生前に2,000万円の現金を特別に贈与されていた。
このような場合、長女の相続割合を計算する際の遺産相続の額は、5000万円(3,000万円+2,000万円)として計算する、ということです。
特別受益があると、遺留分の額にも影響してきます。
全ての生前贈与が特別受益に該当するわけではありませんが、遺言の内容を決める際には、特別受益にあたるような贈与がなかったかどうかも注意する必要があります。
「相続させる」と「遺贈する」は大きく違う
- 〇〇の土地を相続人Aに遺贈する
- 〇〇の土地を相続人Aに相続させる
まったく同じことを言っているように思えますが、この「遺贈する」と「相続させる」の表記の違いで、相続人に与える影響が異なってきます。
例えば「遺贈する」の記載である場合、相続人Aは〇〇の土地を単独で登記することが出来ません。
他の法定相続人と共同で登記申請する必要が発生します。
ちなみに手続きには、法定相続人全員の印鑑証明書などが必要となります。
一方で、「相続させる」の記載である場合は、相続人Aは〇〇の土地を単独で登記することが出来ます。
法定相続人にも遺贈することが出来るのですか?
はい、出来ます。
「〇〇を▲▲に遺贈する」と記載すると、▲▲が法定相続人であっても、遺贈の扱いとなります。
ちなみに「与える」というような記載の場合、これは「相続財産の指定」ではなく「遺贈」ではないのか、という問題が発生します。
「問題が発生します」というけれど、単独で登記できるかなどの相続手続き以外に、遺贈だと何か問題でもあるのですか?
あります。
例えば、直系卑属(子供など)も直系尊属(祖父など)もいない場合、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。
このような場合、配偶者に全財産を遺産相続させたい、と考える方は少なくありません。
この時に「全遺産は妻○○に相続させる」と記載すれば、何の問題もありません。
兄弟姉妹には遺留分もありませんので、遺留分侵害額請求をされる心配もありません。
ただ、「全遺産は妻○○に与える」などと記載して、これが遺贈扱いになった場合、「兄弟姉妹との遺産分割協議が必要になる」可能性があります。
遺贈扱いになると、何かと面倒なことになりかねません。
「相続させる」と「遺贈する」は大きく違うので、遺言を作成する際には注意しましょう。
そして、法定相続人への遺言の場合は、特段の事情がない限り「遺贈する」ではなく「相続させる」と記載しましょう。
出来れば「相続させる財産」と「その相手」を1対1で対応させる
それぞれに遺産の1/3ずつを相続させる、といった遺言を遺すことはもちろん可能です。
ただし、このような遺言の場合、相続人間で遺産分割協議をまとめる必要があります。
また、遺言者はこのような遺言を遺せば、相続人間に等しく財産が行き渡る、と思うかもしれませんが、事はそう簡単ではありません。
「不動産は欲しくないけど、キャッシュは欲しい」といったような、相続人に選択の幅を持たせてしまいます。
そして、そのようなことが原因で、相続人間に等しく財産が行き渡るどころか、いつまでも遺産分割協議がまとまらない、といった争続に発展する可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、出来れば「相続させる財産」と「その相手」を1対1で対応させる遺言書を遺しましょう。