自筆・押印・署名・日付の4点が自筆証書遺言では必須

自筆証書遺言は、遺言者の真意の確保・偽造・変造を防ぐため、遺言の全文、日付及び氏名を自筆し、これに押印をする必要があります。
逆に言えば、自筆・押印・日付・署名のうち、どれか一つでも欠けていたり不備があった場合には、その自筆証書遺言は無効となります。
自筆である
自筆(自書)とは、文字通り自分で書くことです。
よって、パソコンでの作成や代筆での作成は不可となります。
ただし、自筆証書遺言に添付する財産目録については、代筆やパソコン等での作成、不動産登記事項証明書や預金通帳の写しなどの添付が可能で、自筆である必要はありません。
ただし、その目録の毎葉(まいよう、紙などの1枚ごと)に、遺言者の署名及び押印が必要です。
100%自筆でないといけないのでしょうか?
最近、自分一人だけと字がうまく書けず、字を書く際には手を支えてもらうなど、他の人の助けが必要です。
筆跡などで「他人の意思が介入していない」と認められる場合には、自筆の要件を満たし、その自筆証書遺言は有効となります。
押印がある
使用する印に決まりはありません。
よって、認印でも有効です。
拇印(ぼいん、指先に朱肉をつけ指を印の代わりにして指紋を残すこと)でも、大丈夫ですか?
有効か無効かという話であれば、拇印でも有効です。(拇印も有効という判例があります。)
ただ、遺言者のものかどうか判読が出来ないなど、無駄なトラブルや争いを発生しかねないので、やはり実印での押印をお勧め致します。
また、押印は遺言者本人が行うのが原則です。
遺言者の指示の下、他の者が押印した遺言は有効である、という判例もありますが、自分で押印できる場合には、やはり遺言者本人が押印しましょう。
ちなみに、遺言者の死亡後に、遺言書に押印がないからといって、相続人などが押印した場合、遺言書の偽造とみなされます。
よって、その押印をした相続人などは、相続人の欠格事由に該当する恐れがあります。
署名がある
意外かもしれませんが、署名は戸籍上の実名である必要はありません。
遺言者が通常使用している
- 芸名
- 屋号
- ペンネーム
- 雅号(がごう、文人や書家などが本名以外につける風雅な名)
などでも有効です。
また、遺言者本人だと判断できれば、名前だけの記載でも有効です。
遺言者との同一性が示せれば、有効ということです。
ただし、遺言者や一部の人しか「その芸名を知らない」など、無用な混乱を招く可能性もありますので、特にこだわりがないのであれば、「戸籍上の実名」で署名しましょう。
日付が特定できる
日付は年月日が明らかであれば、西暦・元号のどちらでも大丈夫です。
また、数字も漢数字・算用数字のどちらで記載しても問題ありません。
ちなみに、日付が特定できればいいので、以下のような記載でも有効です。
- 令和〇年の元旦
- 令和〇年の誕生日
- 満75歳の誕生日
ただし、第3者の人が見ても客観的に判断できるように、上記のような記載は避けましょう。
また、令和〇年4月吉日というような記載は無効です。
吉日だと、日付が特定できないためです。
そして、日付の記載がなかったり、日付が特定できなかった場合には、いくら他に問題がない遺言だとしても、その遺言は無効となります。
数年前の相続で、この日付のせいで遺言が無効になり、大変な目にあいました。
押印や署名はまだしも、なんで日付の不備一つで遺言が無効になるのですか?
別に日付なんて、なくてもいいと思うのですが。
日付により「遺言作成時の遺言者の遺言能力の有無の確認」、「複数の遺言がある場合に、その前後関係を明らかにし、撤回の有無の判断をする」などのためにも、日付は必要となります。
ちなみに、日付の記載は、通常は署名の前にします。
遺言そのものに日付を記載せず、遺言を封した、その封筒に日付を記載したものも有効である、という判例はありますが、無駄なトラブルを発生させないために、署名の前に日付を記載するようにしましょう。
遺言に使う用紙や筆記用具は何でもよい
遺言を記載する用紙は自由です。
原稿用紙や便箋、メモ用紙、あるいはチラシの裏側でもOKです。
また、筆記用具も鉛筆や墨汁、ボールペンなど、なんでもOKです。
さらに言えば、使う文字も日本語である必要はありません。
ローマ字はもちろん、英語やアラビア語、あるいは方言でもOKです。
ただし、上記の内容はあくまでも可能というレベルでの話です。
実際には、メモ用紙に鉛筆で、遺言を方言で記載する、といったことは常識上ありえません。
ただ、正式な遺言書を作る前に、その下書きや練習用として、メモ用紙などに鉛筆で遺言の内容を書いていた。
ちゃんと見本通りに、書いた日付まで記載し、印の確認として押印もしていた。
そして、正式な遺言を書く前に亡くなってしまった。
遺言者の死亡後、そのメモ用紙が発見され、しかも法的には遺言書としての不備がなく、正式な遺言書となってしまった・・。
あり得ないこととは思われますが、万に一つの可能性もありますので、遺言の練習の際には気を付けましょう。
自筆証書遺言書の作り方のセオリー
自筆・押印・日付・署名が必須ではありますが、逆にいうと、この4つのポイントを押さえておけば、自筆証書遺言書はかなり自由に作成できます。
しかし、やはり何事にも基本があるように、自筆証書遺言の書き方や作り方にもセオリーがあります。
以下は、自筆証書遺言の要件ではないですが、しておいた方がいい事項となります。
- 表題を付ける
- 鉛筆の利用は避ける
- 遺言書は封筒に入れる
- 財産は特定できるように記載する
- 相続人や受遺者を特定できるように記載する
- 用紙はB5やA4サイズで、保存に耐える丈夫な紙を使用する
表題を付ける
遺言であることを明確にするためにも「遺言」、「遺言状」、「遺言書」などの表題を記載しましょう。
鉛筆の利用は避ける
鉛筆だと容易に改ざんができてしまいます。
容易に改ざんができない、万年筆やボールペン、サインペインなどで遺言書は書きましょう。
遺言書は封筒に入れる
改ざんや汚損の防止、秘密保持のためにも、遺言書は封に入れましょう。
そして、封の表に「遺言書」、もしくは「遺言書在中」等と記載し、裏には、作成年月日の記載・署名・押印をします。
封印の印は、遺言書に用いたものと同じ印鑑を使用しましょう。
また、自筆証書遺言は「検認」という作業が必要です。
そのことを知らない相続人が、遺言書の発見時に開封してしまう可能性があります。
よって、これを防ぐために、以下のような文言も、封の裏側に記載しておきましょう。
「本遺言は開封せずに、家庭裁判所へ提出すること」
財産は特定できるように記載する
家は妻に、土地は長男に相続させる。
確かにこれでも遺言の趣旨は分かります。
ただ、土地や建物の不動産は、登記内容に記載してある内容と一緒でないと、登記できない可能性もあります。
よって、登記事項証明書の記載に従って、遺言書に記載します。
また、預金なども金融機関名・支店名・口座番号・名義など、しっかりと第3者が見ても特定できるように記載します。
あいまいな表現やざっくりしすぎた表現だと、思わぬ相続トラブルに発展する可能性もあります。
相続人や受遺者を特定できるように記載する
相続人が妻や子供であれば、妻〇〇や長男〇〇という記載で、誰が相続するのかは特定できます。
ただ、法定相続人以外の方へ遺贈などする場合には、同性同名の方がいる可能性もあるので、「遺言者の姪である〇〇」や「内縁の妻である△△(△△の本籍、△△の生年月日)」などと記載し、同性同名の方がいても、特定できるように記載しましょう。
用紙はB5やA4サイズで、保存に耐える丈夫な紙を使用する
遺言書の大きさに制限はありません。
ただ、遺言書は、検認や相続手続きの際にコピーをとります。
なので、コピーの取りやすいサイズで作成しましょう。
通常は、B5やA4サイズで作成します。
また、場合によっては、遺言書を作成してから数十年後に、遺言者が亡くなることも考えられます。
紙が腐って文字の一部が見えない、といようなことが発生しないように、保存に向いた用紙で作成しましょう。