尊厳死宣言公正証書と公正証書遺言は別物
公証役場で尊厳死宣言公正証書というものを作れると聞きました。
これは遺言の代わりになりますでしょうか?
遺言の代わりにはなりません。
尊厳死宣言公正証書も公正証書遺言も公証役場で作成します。
ただ、尊厳死宣言公正証書と公正証書遺言はまったく別物であり、作成内容や作成方法も異なります。
尊厳死宣言公正証書とは
尊厳死宣言公正証書とは、死のあり方についての自分の考えを公証人に語り、公証人がこれを公正証書として作成するものです。
公証人が五感で感じたことを、そのまま忠実に文書化し、公正証書を作成します。
このような公正証書を「事実実験公正証書」と言います。
事実実験公正証書
Q.事実実験公正証書とはどんなものですか。
公証人は五感の作用により直接体験(事実実験)した事実に基づいて公正証書を作成することができ、これを「事実実験公正証書」と呼んでいます。
事実実験の結果を記載した「事実実験公正証書」は、証拠を保全する機能を有し、権利に関係のある多種多様な事実を対象とします。
例えば、特許権者の嘱託により、特許権の侵害されている状況を記録した事実実験公正証書を作成する場合や、相続人から嘱託を受け、相続財産把握のため被相続人名義の銀行の貸金庫を開披し、その内容物を点検・確認する事実実験公正証書を作成する場合があります。
また、キャンペーンセールの抽選が適正に行われたことを担保するため、抽選の実施状況を見聞する事実実験、土地の境界争いに関して現場の状況の確認・保存に関する事実実験、株主総会の議事進行状況に関する事実実験などもあります。
対象となる事実には、私権の得喪・変更に直接・間接に影響がある事実であれば、債務不履行、不法行為、法律でいう善意・悪意、物の形状、構造、数量ないし占有の状態、身体・財産に加えた損害の形態・程度なども含まれます。
事実実験をどのように実施し、どのような内容の公正証書を作成するかは、嘱託する公証人と事前に十分打合せをすることが必要です。
事実実験公正証書は、その原本が公証役場に保存される上、公務員である公証人によって作成された公文書として、裁判上真正に作成された文書と推定され、高度の証明力を有します。
このようなことから、事実実験公正証書には証拠保全の効果が十分期待できるのです。
引用元
日本公証人連合会
尊厳死宣言公正証書の作成方法や費用
公正証書遺言と同様で、公証役場で作成します。
ただし、尊厳死宣言公正証書の場合は、証人は必要ありません。
必要書類は「運転免許証などの身分証明書+認印」、あるいは「印鑑登録証明書(発行後3カ月以内)+実印」となります。
料金は1時間1万1,000円で、病気などの理由により公証人に来てもらう場合には、手数料が50%加算され、日当として一日1万円(4時間以上は2万円)と交通費の実費がかかります。
尊厳死宣言公正証書の文例
本公証人は、嘱託人〇〇の嘱託により、令和〇年〇〇月〇〇日、標題の件に関し、以下のとおり陳述を録取し、この証書を作成する。
第1条 私〇〇は、私の病気が不治であり、かつ、死が迫っている場合に備えて、私の家族及び私の医療に携わる方々に、自らの死の在り方について、次の要望を宣言します。
1 私の病気が、担当医師を含む2人以上の医師の医学的知見により、現代の医学では不治の状態にあり、かつ死期が迫っており、延命措置の実行が死の過程を引き延ばすだけであると診断された場合には、苦痛を伴う手術や延命措置を行わず、苦痛を和らげる措置をとって、人間としての尊厳を保ち、安らかに死を迎えることができるようにご配慮ください。
第2条 私のこの宣言による要望を忠実に果たして下さる方々に深く感謝申し上げます。そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これらの者を犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
第3条 この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものです。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに、私自身が撤回しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。
公正証書遺言で尊厳死宣言をしても意味はない
尊厳死宣言公正証書が遺言の代わりにならないのは分かりました。
では逆に、公正証書遺言で尊厳死宣言はできないのでしょうか?
できません。
尊厳死宣言は死の問題を扱います。
それに対して、遺言は死後の問題を扱います。
また、遺言は遺言者の死後に、その効力を発揮するため、たとえ遺言で尊厳死について記載したとしても、意味はありません。